スポーツの価値を守る!スポーツファーマシストとは

スキルアップ

こんにちは、やくえいといいます!

薬剤師の仕事の多くは処方された薬を渡したり、副作用を確認したりといったような病気やケガをした患者さんを相手にする仕事です。
ま、そんなことは言うまでもないんですけど。
ただし、これがアスリート相手になるともう少し注意しなければならない点があります。

「アンチ・ドーピング」

処方される薬やドラッグストアの一般用医薬品、健康食品やサプリメントなどの中には競技中のパフォーマンスを上げてくれるものや、その証拠を隠蔽できるかもしれない薬があります。
大きな大会で良い成績を残したいし、オリンピックに出てメダルを取りたいという選手の気持ちもわからないわけではありません。
でも、もちろんそんなのフェアじゃないので認められるわけがありませんし、ズルはいけません。
しかも大会成績が剥奪されたり、出場停止処分など、選手生命にかかわるようなペナルティも受ける可能性があります。

「じゃあ選手は薬を飲むなと?病気になった時どうするんだよ?」
そんなわけありません。薬飲んでも良いと思います。
ただし、アンチ・ドーピング規則違反(ドーピング違反)に該当しない薬ならね。
とはいえ、薬を一つ一つドーピング違反に該当しないか選手自身に調べてもらうのは酷というものです。
また、間違った薬の服用は健康被害をもたらす可能性もあります。
そこでスポーツファーマシストの出番です。
今回はアンチ・ドーピングやアスリートの健康を守るスポーツファーマシストの資格についてご紹介していこうと思います。

アンチ・ドーピングについて

ドーピングとは競技において禁止されている物質や方法を用いて競技成績を良くしようとしたり、その効果を隠そうとしたりする行為のことをいいます。
また、そこに意図があったかどうかは関係ありません。
意図していないものでも検査でひっかかればドーピングとみなされます。
意図したものはもちろん、意図していない「うっかりドーピング」も含めて予防、撲滅していこうという活動がアンチ・ドーピングです。

スポーツは全人類共通の文化です。
皆さんはスポーツを観ていてどんな時に感動、興奮しますか?
困難なことや自分より強い相手へ挑戦する時、そこに立ち向かう勇気を奮い立たせている時、チームの絆を強く感じた時、相手への尊敬や他者理解が垣間見えた時などではないでしょうか。
何より、ルールに則ってフェアな気持ちで競技に取り組むことでその感動が生まれるものと思います。
これがスポーツの価値です。

ところが、応援している選手にドーピング疑惑がかかったらどうでしょうか?
そのパフォーマンスはドーピングによるものかと疑った途端、その感動は冷めてしまうでしょう。
競技全体を通じて疑惑の目で観てしまうことになり、やがてスポーツの価値はなくなってしまいます。
そんなことにならないためにアンチ・ドーピングによって予防、撲滅していくのが大事なんです。

ドーピング違反にあたる行為は以下の通りです。

1.採取した尿や血液に禁止物質が存在すること
2.禁止物質・禁止方法の使用または使用を企てること
3.ドーピング検査を拒否すること
4.ドーピング・コントロールを妨害または妨害しようとすること
  ※ドーピング・コントロールとは、ドーピング検査の一連の流れのことを指します
5.居場所情報関連の義務を果たさないこと
  ※あらかじめ指定されたアスリートは、自身の居場所情報を専用のシステムを通して提出、更新する必要があります
6.正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること
7.禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること
8.アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること

9.アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与する、または関与を企てること
10.アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと
11.ドーピングに関する通報者を阻止したり、通報に対して報復すること
  ※「報復」とは通報する本人、その家族、友人の身体、精神、経済的利益を脅かす行為

公益財団法人 日本アンチドーピング機構 アンチ・ドーピング規則違反の種類
https://www.playtruejapan.org/code/violation/

禁止物質は平たく言うと検査で検出されてはいけない成分やその量のことですね。
禁止方法はその投与方法等になります。
毎年1月1日に禁止物質、禁止方法のリストが改訂されます。
競技に関わっていれば常に禁止されるもの、試合や競技会の時に禁止されるもの、ある特定の競技のみ禁止されているものがあります。
つまり、競技種目によって違いがあります。
Aの競技では良くても、Bの競技では禁止されているなんてことがありますので要注意です。
ちなみに国内の大会か、国際大会かでも違う可能性があります。

ドーピング違反にあたるのは選手だけではありません。
コーチや監督、チームドクターなど、選手をサポートするスタッフも対象となります。

違反した場合にはペナルティがあります。
選手は大会成績が剥奪され、長いものだと4年、8年といった一定期間の競技会出場停止になります。
トップアスリートでもさすがに8年もトップパフォーマンスの維持はできません。
選手生命は終了してしまうでしょう。
また、スタッフ側には指導などのスポーツに関わる活動が制限されます。
チーム競技の場合、該当選手のみならずチームとして出場停止処分を受けることもあります。

意図してドーピングをするのは以ての外ですが、意図しない「うっかりドーピング」にも注意が必要です。
ドラッグストアなどで購入する一般用医薬品や健康食品サプリメントなどで起こりがちです。
風邪薬などには禁止物質が含まれていることがあります。成分表を見れば薬剤師ならわかるかもしれませんが、選手はそうではないでしょう。
健康食品やサプリメントは食品に分類されます。
食品であれば法律上、全ての成分を表示する必要はありません。
その中に禁止物質が入っている可能性はあります。
また、製造過程で混入している可能性も考えられます。
これらを摂取する時に禁止物質が含まれていることに気づかず検査を受けてドーピング違反になってしまった事例も多くあります。
ただし、選手の中には身体の維持のために健康食品やサプリメントを使っている方もいると思われます。
健康食品やサプリメントの中には薬効に似た作用をするものや、相互作用を引き起こすものもあります。
正しい知識を身に付けておくことも必要かもしれません。

スポーツファーマシストとは

スポーツファーマシストとはアンチ・ドーピング規則を十分に理解し、常に最新の情報を有する薬剤師です。
まず薬剤師である必要があります。
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)による研修を受けて公認される資格制度です。

実際の活躍の場として例に挙げられているのが以下の通りです。

公認スポーツファーマシストの活動例

・国民体育大会に向けての都道府県選手団への情報提供・啓発活動 等

・学校教育の現場におけるアンチ・ドーピング情報を介した医薬品の使用に関する情報提供・啓発活動 等

公認スポーツファーマシストHP
https://www.sp.playtruejapan.org/about/index.html

まずは各競技連盟などに関係する場でのアンチ・ドーピング活動があります。
選手や指導者などのスタッフに近い場での活動になります。
ただし、スポーツドクターに帯同するなど、少し機会は限られるかもしれません。

次に学校教育としてのアンチ・ドーピングです。
小さいうちから国際競技に出ることも珍しくなくなりました。
そんな中で、将来有望な子供たちに向けて、あるいはその保護者に向けてのアンチ・ドーピングを啓蒙していくことがあります。
当然小さなアスリートでも風邪くらいは引きますので一般用医薬品を使うかもしれません。
また、まだ年齢も若いうちはサプリメントなどに頼る必要はありません。
早く治そう、より強い体になってもらおうと親心がそうさせてしまう場合もあります。
学校薬剤師としても活動できそうですね。

その他にも、薬剤師に対して薬の問い合わせがあります。
禁止物質に該当するかどうかという問い合わせはもちろんですが、当然通常の患者さんと同様に適正使用などの面でも問い合わせがあります。
禁止物質に該当するかどうか調べることに夢中になりすぎると、選手も一人の患者さんであることも忘れてしまいがちです。
患者さん(選手)の背景も考慮しながら薬剤管理に従事することが大事です。

禁止物質かどうかはGlobal DROという検索エンジンで調べられます。
一応スポーツファーマシストでなくても調べることはできます。
でも、選手もアンチ・ドーピングについて正しい知識を持っている薬剤師に薬剤管理も含めて相談したいですよね。
できればかかりつけ薬局にスポーツファーマシストがいてほしいものです。
スポーツファーマシストがいるかどうかは↓ステッカーが目印です。

筆者撮影

今年も無事更新されまして、新しいステッカーが届きました。

スポーツファーマシストになるには

スポーツファーマシストになるには日本アンチ・ドーピング機構が規定している研修課程を受ける必要があります。

毎年4~5月頃に基礎講習の受講募集があります。
ここは定員が決まっているので抽選になります。

抽選を突破したら6~7月頃に基礎講習を受けます。
以前は集合型の研修でしたが、今年はオンライン研修です。
講習は丸1日です。
また、受講料として7600円かかります。

基礎講習を受講したら、実技講習を受けることになります。
こちらは以前からe-ラーニングでしたので、今年も同様と思われます。
時期は12~1月頃です。
受講後に知識到達度試験を実施し、合格したら認定申請できます。
申請料に21000円かかります。
問題なければ4月1日に認定されます。

文章にすると以上のような流れになります。
僕が受けた時は試験自体は難しい印象はなかったです。
研修内容をしっかり理解できていれば問題ありません。
基礎講習から実務講習までの間隔がありますので、メールの見落としで実務講習の受講ができない・・・なんてことにならないように注意が必要です。
秋頃に案内のメールが来たような記憶があります。
また、最大の難関は最初の基礎受講ができるかどうかです。
こればかりは完全に運次第。
同僚は1回の申し込みで受講できていましたが、僕は3回目でようやく突破しました・・・

まとめ

今回、アンチ・ドーピングやスポーツファーマシストについてご紹介してきました。

ドーピングに対しては徹底的に予防し、撲滅していく必要があります。
うっかりドーピングも該当したらうっかりでは済まされないくらいのペナルティを受けます。
そんな中で薬に精通している薬剤師がスポーツファーマシストとして啓蒙していくことによって、または最後の砦になることによってフェアな状況で選手は競技に取り組めます。

また、スポーツファーマシストは一人の薬剤師として選手の健康にも気を配る必要があります。
選手は薬剤師と相対すれば患者さんです。
健康管理、薬剤管理は薬剤師の仕事の一つです。

選手が健康な状態で、ルールに則って、正々堂々勝負に挑むからこそスポーツで感動や興奮が生まれます。
そんなスポーツの価値を守るという役割は普段の薬剤師業務ではなかなか体験できるものではないです。
ただし、選手からしてみれば薬剤師は「自分の薬を知っていてくれる人」です。
スポーツファーマシストでなくてもアンチ・ドーピングについては知っておいてほしいところです。
最低でも禁止物質について調べる手段くらいは。

今回の記事でアンチ・ドーピングやスポーツファーマシストについて関心が高まれば幸いです。

それではまた!

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